第2回 新規事業を始める前に知っておくべき4つの事前準備


先日、バスケットの日本代表がパリオリンピックへの出場権を取りましたね。
私はバスケットは全く詳しくないのですが、試合を見てドキドキしながら、
「逆転しろ~!」とか「守り切れ~!」とか熱くなりながらテレビを見て
おりました。

 

スポーツの世界は典型かもしれませんが、結果を出すためにはその事前準備を
しておくことが必須です。

 

ビジネスの世界でも全く同じことが当てはまり、事前準備がしっかりできて
いるかどうかがそのビジネスが成功するかどうかに大きく影響します。

 

今回は新規事業に取り組む前に準備しておく4つのポイントについて
書きたいと思います。

 

新規事業に取り組まれている方には、以下の4つのポイントが自社内で整備され
ているかご確認いただきたいと思います。

 

ポイント1.既存事業と新規事業での切り離したキャッシュマネジメント

 

言うまでもありませんが、新規事業は必ずしも成功が約束されるものではなく、
それ相応にリスクがあります。

 

既存事業と新規事業のキャッシュマネジメントをゴチャゴチャにして管理して
しまうと、新規事業がうまく行かなかった場合、既存事業にも影響を与えること
になり、最悪の場合は会社の存続を危うくすることもあり得ます。

 

そのため、
① 既存事業の運営に必要な手元流動性をまず確保する(キャッシュを貯める)
② 既存事業とは別枠で新規事業に必要なキャッシュを確保する
③ 新規事業用に確保したキャッシュ(②のこと)内で運営を行う

 

という順番を守ることが重要です。

 

セミナー等でこのお話をすると
「新規事業って思いついた時にすぐにやらないと他社に取られててしまうのでは?」
とご質問を受けることがあります。

 

確かに、思いついた時にすぐに始めたいという気持ちはよくわかりますし、他社に
先んじて進めないと遅れをとって成功の確率が下がってしまうという考えは一理ある
ようにも見えます。

 

しかし、私はこの考えには賛同しておらず、あくまで上記の①~③の順番を
守ることをお勧めしています。

 

先に述べた通り、新規事業はそれ相応のリスクがあります。①の既存事業に必要な
手元流動性を確保しないまま新規事業を行ってしまうと、うまく行けば良いですが、
うまく行かなかった場合、資金繰り上かなり苦しい経営を余儀なくされ、最悪倒産の
可能性も出てきます。

 

私は経営者として最も避けるべきことは「会社を倒産させる」ことだと考えています。
倒産しないように、まずは既存事業で揺るがない土台を作り、その土台が揺るがない
範囲で新規事業に取り組むべきだと考えています。

 

この順番を守っている限り、仮に新規事業がうまく行かなかったとしても一定期間
頑張れば次の新規事業み取り組むためのキャッシュを作る事が可能です。

 

新規事業はあくまで既存事業の土台があって成立するものであって、既存事業が
おぼつかない時は、新規事業に取り組むよりもまずは既存事業を立て直す方を優先すべきです。

 

この考えで言えば、既存事業がうまく行かないので起死回生のために新規事業に取り組む
というやり方がいかに危険な経営なのか(ほぼギャンブルに近い)ご理解いただけるでしょう。


ポイント2.意思決定のスピードを速くする仕組みを作る(権限移譲)

 

キャッシュフローの問題がクリアされて新規事業がスタートすると、ビジネスプラン作成時の
想定とは違う事実が日々出てきます(これがプランをアップグレードするための学びです)。
つまり、毎日新しい学びがあると言えるでしょう。

 

これらの学びの結果、当初のプランの一部を変更すべき場面が頻繁に出てきます。

 

しかし、通常、新規事業は取締役会で承認されてスタートしますので、そのプランの
変更にも取締役会の承認が必要、という企業が時々あります。

 

取締役会は多くても一月に一回(中小なら三か月に一回というところもあります)なので、
プラン変更の承認を取るのに時間がかかってしまいます。

 

社内の新規事業立上げであれ、ベンチャー立上げであれ、厳しい経営環境を勝ち抜くため
にはスピードが非常に重要です。

 

このスピードを維持するためには、例えば新規事業担当役員に直接話して(社長直轄の場合は社長)承認が取れたらすぐに変更できるよう、権限移譲を進めておくことが重要です。

 

また、承認が必要な項目を事前に決めておき、それ以外の変更はチームの責任者が実施できる
ようにする(その上で事後に報告)等、スピード感を保つ仕組みを作ることが重要です。

 

スピード感の維持と権限委譲を考慮した場合、新規事業を一部門ではなく分社化して進める
という方法があります。


社内での様々な調整は必要ですが、分社化をすることで意思決定や権限移譲について新しい仕組を作ることが可能になりますし、新規事業メンバーに会社としての気合いが伝わるという意味でも十分に検討に値するでしょう。

 

ポイント3.撤退基準の設定

 

「スタートする前から撤退基準を決めておくなんて縁起が悪い」と言われてしまうこともよくあるのですが、新規事業を始めるにあたって撤退基準を明確にしておくことは極めて重要です。

 

先にも述べましたが、新規事業は想定通りに進まないのが常です。
しかし、一旦新規事業がスタートしてしまうと、組織行動上ストップするという意思決定がなかなかできないというのが現実です。

 

その結果、将来性が低いビジネスだとわかっていても「止める」という意思決定を誰もしたがらずズルズルと継続し、結果として多額の資金を失ってしまうことが起こりえます。

 

このような事態を避けるため、例えば「3年以内に月次損益黒字化」という簡単なルールや、
「累積の赤字3,000万円まで」といった明確な基準(誰が見ても判断ができるもの)をスタートする前に設定し、それを撤退基準とします。
(※この「この累積赤字3,000万円まで」というのは、ポイント1の②既存事業とは別枠で新規事業に必要なキャッシュを確保する、のキャッシュ額とほぼ同じと考えていただいて良いです)

 

撤退基準を明確化する目的は将来性がないとわかっているのに誰も意思決定しないままズルズルと事業を続けるという事態を防止するためです。

 

なので、撤退基準を越えられなければいかなる場合でも撤退する、というように杓子定規に考える必要はありません。撤退基準に達してしまったが、明らかに事業が好転している、という場合は撤退することが必ずしも合理的な判断だとは言い切れません。

 

しかし、撤退基準に至ってしまったということは当初の想定と違う現実に直面しているということを意味します。

 

その事実を真摯に受け止めて、ルール通り撤退するか、それでも追加の条件を付けた上で継続するかの意思決定を冷静に行うことが重要です。

 

撤退基準を設けることは、撤退か継続かを冷静に判断するタイミングを持つことであり、このタイミングを持つことで過度な資金流出を抑止する効果に繋がります。

 

4.他部署からの理解と協力

 

新規事業立ち上げにおいて、既存事業の販売網、既存の技術、生産設備、ブランド等、既存事業が持つリソースの中で必ず使えるものがあります。このような内部資源の活用は新規事業を成功させる上でかなり有利に働きます。
(ここはゼロから立ち上げるベンチャーと社内での新規事業立ち上げの一番違う点です)

 

しかし、新規事業部門が他部門からあまり良く思われておらず、「好き勝手なことばかりしている金食い虫」のように思われている(これは結構ある)場合、既存事業のメンバーが協力をしてくれません。

 

このような事態にならないため、経営者や担当役員は
「なぜ今新規事業に取り組んでいて、全社的に協力する必要があるのか」
を十分に社内に説明しなければなりません。

 

新規事業部門もアンタッチャブルな部門のように立居振る舞うことなく、常日頃から既存事業の各部門に相談と協力への感謝を伝える等、継続的に良好なコミュニケーションしていくことが重要です。

 

また、既存事業部門が新規事業部門に協力した場合の評価への反映も同様に重要です。
(やはり評価になると思うと人は動きやすいものです)

 

 

まとめ

今回は新規事業を立ち上げる前に整備しておく4つのポイントについて考えてきました。
新規事業を立ち上げる際に担当者を選んだだけで、それ以外の準備をさほどすることなくスタートする企業が数多くあります。しかし、成功確率を上げるためにはそれ相応の体制整備ができているかどうかで成果に大きく差が出ます。

新規事業に取り組む際に、また取り組んだ後でも是非参考にして頂ければ嬉しいです。


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