第022話 生産性を上げるか、書類送検されるか?


 

 

思わず「え?」とタイトルを見て言ってしまった今週の日経ビジネス。
「労基署はもう見逃さない あなたが書類送検される日」

 


ブラック企業という言葉が一般的になり、労働環境への注目は電通の事件以降益々高くなってきています。



日経ビジネスの記事にはある学習塾の事例が取り上げられていて、授業後に生徒と話をしている時間まで残業時間としなさいと指導がきたとのこと。確かに今、学習塾はいわゆる「ブラックバイト」問題が深刻で、労働環境整備には厳しい目が向けられています。

 


私は㈱すららネットの社外取締役をしていますので、塾のオペレーションについては少しは知っているのですが、授業後生徒の質問を受けたり、雑談に近い話をするのは子供達との信頼関係を作るうえで重要です。

 



しかし、このような時間まで残業扱いをするように労基署から指導されてしまうと、講師側、生徒側の双方にとって良くないのでは?と感じます。強制的に教室から出されて、コミュニケーションが減ってしまうような気がします。
(もちろん、強制的に質問の対応を無給で実施しろと経営側が強要することは論外ですが)

 


一方で、時代の流れとして働き方改革に注目が集まっており、労働時間短縮の流れは不可逆だと思います。

 


さらに、今後日本の労働人口は急速に減少することが確実視されており、企業にとっては労働者の確保が深刻な問題となり得ます。

 


中小やベンチャー企業は大手に負けないようにするために徹夜で仕事するというのはかつてはそう珍しくなかったですが、日経ビジネスによると会社規模の大小にかからず、対応が必要になってくるようです。(昔は会社に寝袋があるベンチャーは多くありましたが)



労働時間は短縮しなければいけなくなるし、労働人口は減るという時代の中で、中小・ベンチャー企業の経営者はどうすればいいんだ?と困惑する人もいるでしょう。

 


この問題は中小・ベンチャーだけの話ではなく、日本全体に関わる大きな問題と言えます。

 


労働時間の短縮と労働人口の減少が目の前に迫っている今の日本において、経済規模を維持・成長させるために最も重要な対策は「一人当たりの生産性」を向上させることです。

 


かつては生産性の低さを労働時間でカバーするということができたかもしれませんが、今後の中小・ベンチャー企業においてはこの感覚を早急に修正しなければ時代に取り残されてしまう可能性が大きくなります。



公益財団法人日本生産性本部が実施した2016年の調査によると、日本の時間当たりの労働生産性は米国の6割強の水準に留まっており、OECD加盟国35か国中22位という低水準となっています。ここに手を付けないと日本経済の衰退は避けられないかもしれません。



確かに今までの日本の経営は、諸外国と比べると「空気を読む」ことが重視され

 

・参加の必要があまりない会議でも一応参加する(かつ異常に長い)

・自分の仕事は終わっているけど上司がいるので会社に残る

・特にどう使われているかわからないが、上司に言われているので資料を作る


といった、生産性が低い仕事が多くあったかと思います(私がコンサルティングをする先でも多くの場合存在します)



しかし、今後の経営においてはこのようなやり方は改善される必要があり、1時間あたり誰がいくらの価値を生み出したのかということに注視していく必要があると思います。
大げさな表現かもしれませんが、社内オペレーションを抜本的に見直す必要が出てきています。



IT技術が進展し、かつてより一人当たりのアウトプットを見える化しやすくなった昨今では、経営者は社員が何時間働いたかではなく、どのような成果を出したかをより詳細にマネジメントすることが可能です。



こう書くと非常に窮屈な労働環境になるように思うかもしれませんが、社員からすると生産性さえ上げれば不要な「空気を読む」行動は必要なくなるし、公私ともにより充実した生活を送ることが可能となります。



経営側も社員の生産性が上がるのであれば全く問題ないはずで、経営側、社員側双方にとって良い形とすることも可能でしょう。

 


そのためにはまず以下の2点を明確にすることが求められます

その1:イシューの明確化
何の目的でその業務を実施しているのかをメンバーが理解する。

その2:役割分担と達成水準の明確化
目的を共有したうえで、「誰が」「いつまでに」「何を」「どの水準まで」行うのかを明確化する


今までの中小・ベンチャー経営においては社員の労働環境改善という意識が大企業と比べるとやや薄かったかもしれませんが、今後はそれが許されない状況となって来ました。



会社としても社員の生産性向上を支援し続けることが持続的な成長を実現するうえでの必須の取り組みとなっていくと思われます。長時間労働で書類送検されるのではなく、生産性向上で会社の業績をアップさせていきましょう。



まずは、自社の「一人当たりの生産性」がどの程度なのか、調べてみるところからスタートされてみてはどうでしょうか?


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